グローバル マーケティング戦略を策定する際の重要ポイント

グローバルな規模でマーケティング戦略を策定するためのガイド

1 概要

課題

ビジネスの国際化や市場のグローバル化に伴い、グローバル マーケティング戦略の重要度が増しています。こうした戦略には、一元管理によって規模と範囲の経済を実現するという特徴がありますが、消費者のニーズは国によって異なるため、ローカライズの重要度も増しています。新しい市場に進出する際は、グローバル戦略とその地域への適応のバランスを適切にとることが課題になります。

目標

グローバル市場に進出する際に適したマーケティング戦略を策定することです。

そのための方法

このガイドでは、グローバル マーケティング戦略とマルチドメスティック マーケティング戦略の違いや、両社の長所と短所について考察します。その後、新しい市場に進出する際に統合型のマーケティング プランを策定する方法について解説します。

2 グローバル マーケティング戦略とは

グローバル マーケティング戦略(GMS)とは、世界の国々をターゲットにして、さまざまな市場での企業マーケティング活動を策定することを目的としたものです。

GMS では、すべての国をカバーする必要はありませんが、複数の地域をターゲットにする必要があります。一般的に、地域はアフリカ、アジア、太平洋(オーストラリアを含む)、ヨーロッパ、中東、ラテンアメリカ、北米に大別されます。「地域別」マーケティング戦略は、1 つの地域でのマーケティング活動を策定したものです。

GMS は、グローバル生産戦略と混同しないよう注意する必要があります。グローバル生産戦略の一般的な特徴であるアウトソーシングや海外製造子会社は、最終製品の製造のために、GMS の有無にかかわらず活用できます。

GMS には、次のようなアクティビティが関係します。

  • ブランド名の統一
  • パッケージングの統一
  • 商品の標準化
  • 広告メッセージの類似性
  • 協調的な価格設定
  • 商品投入の同期化
  • 協調的な販売キャンペーン

GMS 導入のための調整を進めていくと、必然的に、ブランディングやパッケージング、プロモーション メッセージなどに一定のレベルの統一性が生まれます(Zou および Cavusgil、2002 年)。これにより、商品やマーケティング ミックスが、個々の地域の顧客の好みとさほど密接に適合しなくなる場合もあります。それが GMS の潜在的な短所であり、各地域の商品やブランドがつけ入るチャンスにもなっています。

独自のメッセージを強化できるため、統一性には収益面でのメリットが生まれることもあります。しかし、GMS 導入の最大の強みは、統一性のあるマーケティング戦略に伴う、コスト面でのメリットの規模と範囲が大きいということです。そうしたコスト面でのメリットには、同じマーケティング活動を繰り返す必要がないことや、多言語化、同一サイズのパッケージングに伴う費用の削減、同じプロモーション資料を使い回せること、メディア購入時に大口割引を受けられることなどがあります。

グローバル セグメンテーション

GMS を導入する傾向が最も強いのは、グローバル市場で事業を展開している企業です。グローバル市場とは、世界中で顧客のニーズや要望、好みが類似している市場のことを指します。一般的な商品カテゴリには、テクノロジー製品(家電製品やカメラ、パソコンなど)、ブランドものの高級品、アパレル、パーソナルケア、エンターテイメントなどがあります。これらは、特定のセグメントで誰もがグローバルに標準化された商品を求めているカテゴリです。これに対して、食品や飲料品などが該当するマルチドメスティック市場では、好みが文化によって決まる傾向が強く、グローバルな協調はあまり一般的ではありません。

グローバル市場のマーケティング担当者は、まず、類似地域に国をグループ化し、各地域内で均質なサブグループを見つけられる可能性を高めます。これは通常、たとえば欧州連合のようなひとつの貿易ブロックを選ぶということになります。ある調査では、多くのグローバル戦略は、実際にはグローバルというよりもむしろローカル戦略であることが明らかになっています(Rugman、2005 年)。

企業が地域顧客の好みを変えることができれば、それもまた GMS の上手な活用ということになります。新商品がローカル市場に投入されると、新しい機能やプロモーション、価格設定によって、ある程度の好みの変化が起こるのが一般的です。たとえばスウェーデンの家具販売店 IKEA は、多数の国の家具市場に変化をもたらしています。自社のシンプルで機能的な家具と、年次カタログ、ウェアハウス ストアを中核に据えつつ、詳細に標準化され、調整されたマーケティング戦略を活かしています。アメリカのコーヒー チェーンの Starbucks も、新作コーヒーや斬新な店舗レイアウト、幅広いメニューを活かし、複数の国で成熟した市場を再構築し、拡大しています。

これらのほかに、標準化を可能にするための環境の変化が好みに影響を及ぼしたケースもあります。カロリー控えめのビールやミネラル ウォーター、ワインへの転向などと同様、環境に配慮したグリーン製品も必然的にグローバルなセグメントがターゲットになります。そのようなグローバル セグメントの存在は、当然企業に GMS の導入を促すことになります。

グローバルなポジショニング

グローバルなポジショニングにおける主な問題は、あらゆる場所で商品のポジショニングを統一させるかどうかという点です。この問題を複雑化させているのは、マーケティング ミックスに完全な統一性があっても、その結果としての位置付けには、国ごとの差異が残るという事実です。伝統的な例としては、Levi's のジーンズが挙げられます。アメリカのメインストリームのライフスタイル セグメントでは、武骨なアウトドアのイメージを持つジーンズとして位置付けられていますが、他の国では、スタイリッシュなアイコンになっています。また、この例が示すように、ブランドが「グローバル」なイメージを目指しても、その位置付けは、ポジティブなものもネガティブなものも含め、原産国の影響を受けるのが一般的です。

欧米では、リンゴなどの食料品がヘルシーなおやつとして消費される場合があります(「1 日 1 個のリンゴで医者いらず」という言葉があります)。しかし日本では、リンゴはギフトとしての人気が高く、色やパッケージング、価格が重視されており、位置付けが異なります。

そのような使用方法の大きな違いがない場合でも、一般に、経済発展や文化的距離の違いが位置付け統一の可能性に影響する主要な要因になります。新興市場の初回購入者と、好みが確立されている成熟した市場の消費者では、商品の見方が異なるケースがほとんどです。たとえば Buicks は、製品自体はほとんど同じであるにもかかわらず、中国の新規顧客に対し、米国の顧客とはかなり異なる特典を提供して成功しています。

各地域の競争相手の強さも国によって異なる傾向があり、それもポジショニングに影響します。対象国の中の競争相手が強い場合、外国ブランドは自国内ではメインストリームであっても、ニッチなターゲットを狙うのが一般的です。グローバル マーケットでは、主要外国市場で同じグローバル プレーヤー同士が競争を繰り広げていることが多いため、成熟した市場でのポジショニングは一定の状態が保たれる傾向があります。例としては、ほとんどの市場でグローバル プレーヤーが非常に似通った位置付けを維持している自動車業界が挙げられます。多くの国で成長段階にある新しい商品カテゴリの場合は、この傾向はあまり当てはまらず、場所によってブランドの認知度にも差があります。 ライフサイクルの段階も国ごとに異なる傾向があり、特定の位置付けをどの程度効果的に伝達できるかに影響します。好みが流動的な早期段階では、主要国でのポジショニングに基づく戦略は、新しい国ではあまり効果的ではない場合があります。そのため、キャノンが初めて発売した自動一眼レフ カメラは、日本ではメインストリームの商品として位置付けられましたが、よりプロ志向の海外の写真業界では、専門的な商品として位置付けられました。しかし、繰延需要がある新興国では、新しい消費者でも、主要市場の最高の商品を求めます。そのため欧米の一部の企業(家電メーカーの Electrolux など)は、新興国では自らを市場のトップとして位置付けます。

一般に、グローバルで統一されたポジショニングを実現するには、文化、競争相手、ライフサイクルの段階が類似している必要があるという戦略的仮定が成り立ちます。ただし、そうした条件が満たされていない国でも、標準化したグローバルなポジショニングが成り立つ場合があります。たとえば、グローバルな情報発信によって、すでにブランド名がしっかりと認知されているのであれば、グローバル戦略がマルチドメスティック市場でも有効な場合があります。

3 グローバル マーケティング ミックス

グローバルな商品とサービス

一般に、グローバル マーケティング ミックスの大きな特徴は、商品やサービスの標準化です。「商品の標準化」とは、商品やサービスの機能、デザイン、スタイリングを統一させることを指します。

その主なメリットはコストにあります。同一ユニットを大量に製造することで、規模の経済を活かすことができるためです。しかし、品質面でのメリットもあります。長期的な視野に立つと、専門的なテクノロジーや工作機械、コンポーネント、部品に投資する意義が大きくなり、それが品質そのものの向上と、品質の一貫性向上につながります。最終的に、顧客に対する需要効果が高まります。商品やデザイン普及によって、顧客の好みにポジティブな効果が生じます。

商品の標準化の主な短所は、需要面にあります。新興国に繰延需要があるケースを除き、新しい国の市場では、標準化された商品で特定のセグメントを正確にターゲットに定められることはほとんどありません。少なくとも、ターゲットが若干ずれてしまいます。ただし、それが成功の障害になるとは限りません。その 1 つ目の理由は、好みは変容するという点です。標準化された商品が、対象の市場にそれまで存在していなかった機能を提供することもあります。2 つ目は、ポジショニングにミスがあっても、強いブランド名で克服できるという点です。3 つ目は、発売した商品を低価格で販売できるという点です。規模を活かすことで、そうした戦略が可能になります。

マーケティングの観点からは、統一性のある商品やサービスは、地域によっては受け入れられにくくなります。ある市場で好評な商品やサービスが、別の市場では受け入れられないことがあります。高級品は通常、世界全体で同一になり、自動車のタイヤや歯磨き粉、調理器具などの実用品は標準化が可能です。一方、シャンプーやせっけん、パーソナルケアといった商品は、十分な成果を出すためには髪質や肌の色、水質などを考慮する必要があります。Coca Cola は甘さが国によって異なり、McDonald メニューは各国の好みに合わせてあります(反グローバリゼーション活動を抑える意味合いもある)。アパレル メーカーの場合は、欧米人とアジア人の身体的特徴の違いを考慮し、調整を加える必要があります。

企業がそうした適応を進めながら、ある程度のレベルの規模の経済も維持していくうえでは、2 つのソリューションがあります。1 つ目のソリューションは、商品の基本設計や「プラットフォーム」は統一したうえで、製造の後期段階で代替機能を追加することで適応するというものです。2 つ目は、商品を大量生産できるコンポーネント モジュールに分割して規模のメリットを活かしたうえで、モジュールの組み合わせを変えながら複数種の商品を製造するというものです。この方法は、さまざまなモジュールの製造を外部委託したり海外に移転したりできるため、大企業向けの非常に優れた製造戦略になっています。製造プロセスは簡単な組み立てプロセスになり、必要に応じて各地域で実行し、関税率を引き下げることもできます。これにより、企業はそれぞれの国の市場に合わせて機能を自由に「組み合わせ」、各地域の好みに適応することができます。

企業は全地域で同じ商品を提供しなくても、商品の標準化による規模の経済を活かすことができます。企業は商品を完全に標準化しなくても、協調的なグローバル戦略を策定できます。ただし、強いグローバル ブランドがないと、GMS 戦略の策定はほぼ不可能と言えるでしょう。

グローバル ブランド

全地域でブランド名を統一することがグローバル マーケティング担当者の代名詞になっており、多くの多国籍企業が「グローバル ブランディング」に躍起になっています。

「グローバル ブランド」とは

グローバル ブランドとは、世界の主要市場すべてで、広く認知されているブランドのことを指します。リージョナル ブランドは、特定の地域全体で同一のブランドのことを指し、ローカル ブランドは、1 つか 2 つの市場のみで認知されているブランドのことを指します。

金融資本の観点から見たトップブランドの多くは、グローバルに展開しています。しかし、強いブランドには、さまざまな国で事業を展開することだけでなく、各地域の顧客から支持を獲得することも求められます。グローバル ブランドが事業を拡大し、金融資本を築いていく中で、ローカル ブランドは顧客に寄り添い、親近感、すなわち「ソフト エクイティ」を創出することで自分たちの領域を守っています。多くのグローバル企業はそのことを頭に入れたうえで、各国の市場でグローバル ブランドのマーケティングを行うだけでなく、優秀なローカル ブランドを買収し、そのブランド名と顧客を獲得することもあります。

グローバル ブランドの最も明確な利点は、規模と範囲に基づくコスト効率です。このコスト効率は、長期にわたって同一商品を製造、パッケージングできる能力に起因している場合が多く、グローバル ブランドは統一性のあるグローバル プロモーションを展開できるという点も理由になっています。需要の波及は、多数の場所で同じブランドの露出を増加させることで生まれます。これは特に、顧客が世界中にいる場合に有効です。海外旅行の増加は、グローバル ブランドの大きな促進要因になっており、研究者は、特に新興国で地位や評判によるアドバンテージがあることを示しています。

グローバルな価格設定と流通

GMS では、価格設定と流通の結び付きが国内事業よりも強くなります。その理由は、流通に伴うコスト(輸送費、保険、関税)によって、必然的に最終的な販売価格が上がることではありません。1 回限りの取引を除き、そのような直接的な「価格上昇」はよく起こることではありません。

価格設定と流通の強い結び付きは、別の事象としてより直接的に現れます。輸送の容易さと、地域ごとの価格の違い、通貨価値の変動によって、顧客が海外でより安く商品を購入できるアービトラージを可能にする利幅が生まれます。これはいわゆる「グレートレード」の例です。グレートレードとは、承認されていないチャネルを介してブランド商品を輸入することです。このグレートレードの増加によって、多国籍企業は価格と流通戦略を結び付けて決定しなければならなくなりました。また、本来ならグローバル戦略について熟考することはない多国籍企業も、そうした取引を防ぐために、価格を調整する方法を見つける必要があります。

グレートレードは多数の多国籍企業に影響していますが、違法ではありません。たとえば、アジアの委託製造業者が、欧米の多国籍企業のブランド商品を昼間勤務で製造し、同じ商品の追加バッチを夜間勤務で製造するといった事例が多数あります。こうした商品はその後、低コストで海外に出荷され、第三国などから間接チャネルを介して流通し、最終的に欧米のさまざまな市場に届きます。また、価格の低い国で商品を購入してから、国内でそれよりも高い価格で販売する欧米の流通業者(ヨーロッパの大手小売業者など)がグレートレードに関係しているケースもあります。

グローバル マーケティング コミュニケーション

グローバル化が進み、グローバル ブランドにかかるストレスが強まっているため、世界中で反グローバリゼーションや親ローカリゼーションの気運が高まる中でも、グローバル広告は勢いを保っています。その要因の 1 つは、インターネットの台頭と、YouTube などのサイトで多数のコマーシャルが流れるようになったことです。それにより、ローカルな広告キャンペーンでも、グローバルに掲載対象を拡大できるようになりました。

統合型のグローバルな情報発信のニーズが高まっていることには、さまざまな背景があります。サプライサイドでは、統合型のグローバル広告代理店が台頭し、グローバル広告の増加における重要な役割を担っています。デマンドサイドでは、顧客のグローバル化が進んでいます。旅行の費用が下がって旅行者が増加したことで、消費者の旅行の頻度が多くなっており、B2B 商品の分野では、顧客が多国籍企業であることが多くなっています。

しかし、一般的には、グローバル企業のマーケティング コミュニケーションが、すべてグローバルな視野で調整されているわけではありません。まず、メディア広告はさまざまなプロモーション ツールの 1 つにすぎず、メディア規制は国によって異なります。たとえば、どの国でも小売規制でコンテストが許可されているわけではありません。また、多くの場合、クーポン利用は店舗で拒否されます。

メディア広告も、完全にグローバル化されていることは稀です。各地域の支社やその代理店が最高のクリエイティブを制作しようという意欲は、自主性によって高まっています。国によっては利用できないメディアがあり、コストが大きく変わり、効果にも大きな違いがあります。新興国では比較的に印刷メディアの効果が低くなっている一方で、ヨーロッパ全体では印刷メディアが非常に重視されています。インターネットは新しく、本質的にグローバルなコミュニケーション チャネルですが、世界のあらゆる地域に浸透しているわけではありません。また、一般的に広告メッセージは各地域に適応させる必要があります。言語、文化、宗教の違いによって、広告メッセージの標準化が妨げられ、シンボルの表記が不適切になることもあります。

こうした問題から、多くの企業は広告費のごく一部しかグローバル キャンペーンに割いていません。ローカライズしたキャンペーンは地域の代理店が実施しますが、グローバルなキャンペーンは、大規模なグローバル代理店が一手に引き受けるのが一般的です。

グローバル企業の多くは、フォントや色など、ブランド名の表記を厳格に定めています。ただし、グローバル キャンペーンにも、ある程度のバリエーションがあるのが一般的です。テレビ業界でのグローバル広告の一般的な形態に、パターン標準化というものがあります。地域の有名なスポークス パーソンや俳優を起用したり、地域への訴求力が強いストーリーを使用したりすることで、広告のビジュアルを地域の文化や言語に適応させる方法です。ブランド名やロゴは同一で、最終的なスローガンは直接翻訳されるのが一般的です。俳優に話してもらう代わりに、吹き替えを使用することで、地域の言語での説明をコマーシャルに重ねることができます。現在はこの形態でのグローバル広告が広まっており、企業やブランド、国、地域で統一されたイメージが創出されています。

全般的に、多くの企業はグローバルな統一性をある程度保っていますが、資金の大部分を各地域に適応させた情報発信に割くことで、安全策をとっています。